アドレナリンは院外心停止患者の神経学的予後を本当に悪化させるか?
心停止患者において、エビデンスがしっかりあるのは、胸骨圧迫と除細動のみで、アドレナリンのエビデンスは実は弱いです。JRC蘇生ガイドライン2015をみてみると、
心停止患者に標準用量のアドレナリン投与を提案する(弱い推奨、非常に低いエビデンス)
と記載されています。
これは、アドレナリンを投与することで、
・ROSC率
・短期間の生存率
はよくなると報告される一方、いちばん大事な
・神経学的転帰 (CPC1,2)
では、有害である可能性を示唆する報告が散見されているからです。
これに関しては現在英国で、院外心停止患者を対象にアドレナリンとプラセボの効果を比較するRCTであるPARAMEDIC 2: The Adrenaline Trialが実施中です。2019年に報告される予定で、この結果が今後のガイドラインに大きく影響するでしょう。
しかしながら、現時点では、ショック非適応な心停止においてできることは、アドレナリン投与しかなく、アドレナリン投与のタイミングは、JRC蘇生ガイドライン2015によると、
初期ECG波形がショック非適応リズムの心停止においてアドレナリンを投与する場合は、心停止後可能な限り速やかに投与することを提案する(弱い推奨、低いエビデンスレベル)
初期ECG波形がショック適応リズムの心停止においてはアドレナリン投与時期に関する推奨や提案をするほどの十分なエビデンスを、特に電気ショックとの関係においては見出すことができなかった。理想的なタイミングは患者自身や状況の違いによって大きく異なる可能性がある。
と記載されています。
ショック適応患者なら、とにかく速くエビデンスがある除細動を。アドレナリン投与は2分後のリズムチェックをしてから。
ショック非適応患者なら、他にできることがないから、とにかく速くアドレナリンをといった内容です。
とにかく速くアドレナリン投与が大事ならプレホスピタルで打たなきゃだめじゃんって思います。ここでプレホスピタルのアドレナリン投与の大規模観察研究を見てみましょう。
2005-2008年の「ウツタイン」における院外心肺停止約42万人のデータを使用し、
アドレナリン使用群と非使用群を比較し、心拍再開率、1カ月の生存率、および
1カ月神経予後良好(CPC-1,2)率を検証。
結果アドレナリン投与は、
ROSC率は有意に改善 (OR 2.36 (95%CI 2.22-2.50))
しかしながら、
1ヶ月生存率は有意に悪化(OR 0.46 (95%CI 0.42-0.51))し、
神経学的予後良好率も有意に悪化(OR 0.31 (0.26-0.36))
2015年には
院外心停止患者におけるアドレナリン投与の有効性について、計14研究655853例のメタ解析が報告されましたが、ここでも、
ROSC率の有意な改善(OR 2.86; p<0.001)
と、
神経学的予後良好率の有意な悪化(OR 0.51; p=0.008)
を示しています。
やっぱ、アドレナリン投与ってだめなんじゃない?って思わせる結果でした。しかしこの結果に関しては、プレホスピタルであっても、その中にアドレナリン投与が速い群と遅い群があり、遅い投与群が多いから神経学的予後が悪くなるのではないか?って考えがあります。
次回に続く、、、