アドレナリンは院外心停止患者の神経学的予後を本当に悪化させるか? part2
院外心停止患者において、プレホスピタルのアドレナリン投与は、神経学的予後を悪化させるのではっていう報告があります。くわしくは下記の記事を参考にしてください。
この要因としては、プレホスピタルの投与でも、アドレナリン投与が速い群と遅い群が存在して、速い群では神経学的予後を改善するが、遅い群では、心拍再開はさせるが、神経学的予後を改善させないからではないかって仮説があります。
① 2015年にresuscitationで発表された報告
アリゾナ州の心停止レジストリ3469人のデータを使用し、院外心停止患者での救急指令からアドレナリン投与までの時間とアウトカムの関連を検証。
1分間の遅延ごとに生存率が低下 (OR 0.94 (95%CI 0.92-0.97))
神経学的予後は有意差なし (OR 0.96 (95%CI 0.90-1.02)
と言う結果でした。
2011年~2014年の日本のウツタインデータ506046例のうち、目撃有りの心原性心停止で、通報から患者接触まで16分以内でアドレナリン投与を行った13326例を、アドレナリン投与が10分以内であった症例と10分以上かかった症例で1ヶ月後の神経学的予後を比較。
通報〜患者接触まで
0〜8分以内で神経学的予後を改善 (OR 2.12 (95%CI 1.54-2.92))
8 〜16 分でも神経学的予後を改善 (OR 2.66 (95%CI 1.97-3.59))
という結果でした。
これらを考えると、院外心停止患者に対して救急隊がしなければいけないことは、気道確保よりもライン確保しアドレナリン投与ということになります。救急隊が心停止患者に接触したとき、LTによる気道確保の許可の電話がかかってきますが、それよりもライン確保しアドレナリン投与を指示しなければいけませんね。
ちなみに2018年のresuscitationで早期アドレナリン投与の新たな報告がありました。 これは詳しくみてみます。 Part3につづく...
急性・慢性心不全診療ガイドライン2017 主な変更点
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure (JCS 2017/JHFS 2017)
2018/3/23 日本の心不全ガイドラインが改訂されました。
最大の変更点は,急性心不全と慢性心不全に分かれていた心不全診療ガイドラインが1本化されたこと。これは,急性心不全の多くが慢性心不全の急性増悪であり,急性期から慢性期までシームレスな治療の継続が必要であることから,診療ガイドラインも急性と慢性の2つに区分するのは現実的でないという認識に基づいてとのことです。AHAもESCも既に統合されており、その流れに追従した感じですね。主な変更点は下記の10項目です。
1. 心不全の定義を明確化
<ガイドラインとしての定義>
なんらかの心臓機能障害,すなわち,心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果,呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し,それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群
<一般向けの定義>
心不全とは,心臓が悪いために,息切れやむくみが起こり,だんだん悪くなり,生命を縮める病気です.
2. 心不全とそのリスクの進展のステージを記載
AHAでは2001年から記載されているステージ分類です。心不全の経過をみるにわかりやすい図だと思います。
3. LVEFによる心不全の分類
2013のAHAのガイドラインでEFにおける心不全の分類としてHFpEF, HFrEF, HFpEF improvedが記載されました。2016のESCガイドラインでHFpEF, HFrEF に加えHFmrEFが新たに記載されました。今回JCSのガイドラインでは全て記載。ちなみにHFpEFはヘフペフ、HFrEFはヘフレフっていいます。認知度が低いときにつぶやいたらそんな読み方するわけ無いやろー。なんの呪文やねんって笑われたのはいい思い出。HFmrEFやHFrecEFはなんて呼ぶんだろうか。
<BNP>
2013年に日本心不全学会予防委員会がだしたコメントをそのまま採用されています。
<心エコー>
拡張障害の診断について記載されています。
5. 心不全予防
<高血圧>
特にサイアザイド系利尿薬は心不全の発症予防効果が高いとのことで推奨Class1 エビデンスレベルAで記載されています。
<心筋梗塞>
二次予防として、ACE阻害薬、β遮断薬、スタチン、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬が推奨Class1の記載。ニコランジルが書いてあるのも、日本のガイドラインって感じです。
<糖尿病>
糖尿病治療薬で唯一心不全予防効果を示したSGLT2阻害薬が推奨Class1 エビデンスレベルAで記載。SGLT2の試験結果は衝撃でしたからね。
コンパクトに纏まってます。
7. 併存症の病態と治療
高血圧、糖尿病、CKD・心腎症候群、高尿酸血症、COPD・喘息、貧血、睡眠呼吸障害
について記載有り。充実しています。
<肺エコー>
肺水腫の鑑別診断において肺エコーによるBラインの感度は94.1%、特異度は92.4%。もはや肺エコーは必須ですね。
<特殊病態の対応としてMR.CHAMPHの記載>
Myocarditis(心筋炎)
Right-sided HF (右心不全)
aCs (急性冠症候群)
Hypertensive emergency (高血圧緊急症)
Arrhythmia (不整脈)
acute Mechanical cause (機械的合併症)
acute Pulmonary thromboembolism (急性肺血栓塞栓症)
High output heart failure (高拍出性心不全)
ESC2016ではCHAMPだけでした。
10. 緩和ケア
アドバンス・ケア・プランニングとか終末期心不全、チーム医療の重要性など。今いちばん大事なところですね。
アドレナリンは院外心停止患者の神経学的予後を本当に悪化させるか?
心停止患者において、エビデンスがしっかりあるのは、胸骨圧迫と除細動のみで、アドレナリンのエビデンスは実は弱いです。JRC蘇生ガイドライン2015をみてみると、
心停止患者に標準用量のアドレナリン投与を提案する(弱い推奨、非常に低いエビデンス)
と記載されています。
これは、アドレナリンを投与することで、
・ROSC率
・短期間の生存率
はよくなると報告される一方、いちばん大事な
・神経学的転帰 (CPC1,2)
では、有害である可能性を示唆する報告が散見されているからです。
これに関しては現在英国で、院外心停止患者を対象にアドレナリンとプラセボの効果を比較するRCTであるPARAMEDIC 2: The Adrenaline Trialが実施中です。2019年に報告される予定で、この結果が今後のガイドラインに大きく影響するでしょう。
しかしながら、現時点では、ショック非適応な心停止においてできることは、アドレナリン投与しかなく、アドレナリン投与のタイミングは、JRC蘇生ガイドライン2015によると、
初期ECG波形がショック非適応リズムの心停止においてアドレナリンを投与する場合は、心停止後可能な限り速やかに投与することを提案する(弱い推奨、低いエビデンスレベル)
初期ECG波形がショック適応リズムの心停止においてはアドレナリン投与時期に関する推奨や提案をするほどの十分なエビデンスを、特に電気ショックとの関係においては見出すことができなかった。理想的なタイミングは患者自身や状況の違いによって大きく異なる可能性がある。
と記載されています。
ショック適応患者なら、とにかく速くエビデンスがある除細動を。アドレナリン投与は2分後のリズムチェックをしてから。
ショック非適応患者なら、他にできることがないから、とにかく速くアドレナリンをといった内容です。
とにかく速くアドレナリン投与が大事ならプレホスピタルで打たなきゃだめじゃんって思います。ここでプレホスピタルのアドレナリン投与の大規模観察研究を見てみましょう。
2005-2008年の「ウツタイン」における院外心肺停止約42万人のデータを使用し、
アドレナリン使用群と非使用群を比較し、心拍再開率、1カ月の生存率、および
1カ月神経予後良好(CPC-1,2)率を検証。
結果アドレナリン投与は、
ROSC率は有意に改善 (OR 2.36 (95%CI 2.22-2.50))
しかしながら、
1ヶ月生存率は有意に悪化(OR 0.46 (95%CI 0.42-0.51))し、
神経学的予後良好率も有意に悪化(OR 0.31 (0.26-0.36))
2015年には
院外心停止患者におけるアドレナリン投与の有効性について、計14研究655853例のメタ解析が報告されましたが、ここでも、
ROSC率の有意な改善(OR 2.86; p<0.001)
と、
神経学的予後良好率の有意な悪化(OR 0.51; p=0.008)
を示しています。
やっぱ、アドレナリン投与ってだめなんじゃない?って思わせる結果でした。しかしこの結果に関しては、プレホスピタルであっても、その中にアドレナリン投与が速い群と遅い群があり、遅い投与群が多いから神経学的予後が悪くなるのではないか?って考えがあります。
次回に続く、、、