あたらしい抗菌薬〜ceftolozane/tazobactam〜
MSD株式会社は2月28日、注射用広域抗菌薬「タゾバクタムナトリウム・セフトロザン硫酸塩配合剤」の製造販売承認申請を行った
近い内に発売されると思うので予習しようと思います。
総論とこれまでにどんなエビデンスがあるかしらべてみました。
1.総論
セフトロザン硫酸塩(ceftolozane)は新しい第4世代セフェム。
タゾバクタムナトリウム(tazobactam)はβラクタマーゼ阻害薬の一つ。ゾシン®に配合されているβラクタマーゼ阻害薬で有名。
ceftolozane/tazobactamは第4世代セフェムではじめてのβラクタマーゼ阻害薬配合薬で、耐性緑膿菌やESBL産生腸内細菌にもスペクトラムを広げたセフェムとのこと。by製薬会社・・・
2.エビデンス
これまでにPhase 3 trialがASPECT- cIAIとASPECT- cUTIの2つ施行されています。
① ASPECT- cIAI
複雑性腹腔内感染症に対してメロペネムに対する非劣性を証明する目的でおこなわれた多施設DB-RCT。
<対象>
複雑性腹腔内感染症で腹腔ドレナージ、開腹手術を24h以内に施行している患者
<割付>
・ceftolozane/tazobactam 1.5g q8h+metronidazole0.5g q8h 4-14日間
・meropenem 1g q8h 4-14日間
<評価項目>
治療24-32日目の臨床的治癒率
主要:MITT(Microbiological Intent-to-Treat)の集団 (ITT解析のこと)
副次:ME (Microbiologically Evaluable)の集団 (PP解析のこと)
非劣性マージンは10%。
<結果>
993人の患者が割付られ、MITT解析では806名、ME解析では596名が研究対象に。
約5割が虫垂炎の穿孔や膿瘍形成、約2割が胆嚢炎、約2割はその他消化管穿孔や膿瘍形成。
ceftolozane/tazobactam+metronidazoleはMEPMとの比較で、MITTでは83% vs 87.3%、MEでは94.2% vs 94.7%と非劣勢であった。
ESBL産出菌でも差がなし。
有害事象は44% vs 42.7%でどちらも嘔気・下痢が最も多かった。
<感想>
なぜメトロニダゾールをかました??タゾバクタムがついてるから嫌気性菌はしっかりカバーできるのでは??単剤では嫌気性菌カバー弱いと考えているのか??
② ASPECT- cUTI
複雑性尿路感染症に対してLVFXに対する非劣性を証明する目的でおこなわれた多施設DB-RCT。
<対象>
18歳以上の入院患者で腎盂腎炎を含んだ複雑性尿路感染症と診断された患者
<割付>
・ceftolozane/tazobactam 1.5g q8h 7日間
・levofloxacin 750mg q24h 7日間
<主要評価項目>
細菌の消失(10^4未満)と治療5-9日後の臨床的な改善の複合アウトカム
非劣性マージンは10%。
<結果>
1083人の患者が組み入れられ、800人(73.9%)が実際に研究対象となった。そのうち656人(82.0%)が腎盂腎炎であった。菌血症は7.8%でほとんどはE.Coli。776例(97.0%)が単一菌感染で、629例(78.6%)がE.Coli、58例(7.3%)がK.pneumoniae、24例(3.0%)がProteus mirabilis、23例(2.9%)がP.aeruginosaだった。
複合アウトカムは、Ceftolozane/tazobactam 306/398(76.9%)、Levofloxacin 275/402(68.4%)で、群間差の95%CIが 2.3-14.6と非劣性の証明だけでは無く、Ceftolozane/tazobactamの優位性が示唆された。
有害事象は、34.7%と34.4%で共に頭痛、便秘、悪心、下痢が多かった。
<感想>
今回のstudy、ESBLカバーはCeftolozane/tazobactamで75%、LVFXで50%。うーん。ESBL疑うならMEPMかな。
っていうかなぜ相手の抗菌薬はLVFX?E.ColiはLVFX耐性がすすでいる。当施設でも、E.Coliの薬剤感受性率をみてみるとLVFXは80%をきっていて、CEZの方が感受性率が86%と高い。そしておどろくべきことに、当施設はABPC/SBTの感受性は70%。やっかいだねー。
まあそこはおいといて、比べるならPIPC/TAZとでしょって思うけど、自信なかったんかなぁ・・・。
気管挿管は院外心停止患者の神経学的予後を悪化させるか?
★JAMA★
Effect of Bag-Mask Ventilation vs Endotracheal Intubation During Cardiopulmonary Resuscitation on Neurological Outcome After Out-of-Hospital Cardiorespiratory Arrest February 27, 2018
院外心停止(OHCA)患者において、CPR中の気管挿管(ETI)は死亡率増加と関連があるって大規模観察研究やシステマティックレビューがある。
例えば、
1. JAMA 2013;309(3):257-266.
日本ウツタインでの成人OHCA患者前向データ (n=649,654名)。神経学的良好生存はETIで1.0%、声門上器具(SGA)で1.1%、バッグバルブマスク(BVM)で2.9%であった。
2. Resuscitation. 2014;85(5):617–22.
アメリカCARESレジストリでの心原性推定のみの後向データ(n=10,691)。神経学的後遺症なき生存はETI群5.4%、SGA群5.2%、no advanced airway 群18.6%であった。
理由として考えられているのはBMVのほうが
・簡単にできる
・胸骨圧迫の邪魔しない
・合併症が少ない
からいいのかもねー。
ということで、BMVはETIと比較して、28日後の神経学的良好生存が非劣勢だろうという仮説でRCTをしたよ。っていうのが今回の論文。
多施設RCT (ベルギー・フランス、20のプレホスEMSセンター)で、
対象は、18歳以上の院外心停止患者。
除外基準は蘇生前の大量誤嚥、DNAR患者、妊娠など
CPR中の気道確保をBMV群or ETI群に割付。
主要評価項目は
・28日における神経学的良好生存 (CPC1 or 2)
副次評価項目は
・入院時生存率
・28日生存率、
・ROSC率
・etc
統計手法として、BVMの非劣性を示すため、BVM群と気管挿管群の予後良好率を3%、2%と見込んで非劣性閾値1%で症例数設計をおこなった。
結果は。。。
登録されたのは2043人。
患者は65歳くらい。女性が3割くらい。
心停止の原因は心原性が70%弱
初期波形はshockable rhythmが15%
28日における神経学的良好生存(CPC1 or 2)は
BMV群で4.3%、ETI群で4.2% (非劣勢の P= 0.11)
ROSC率はBMV群で34.2%、ETI群で38.9% [95% CI -8.8% to -0.5%]とETI群でよかった。
入院時生存率はBMV群28.9%・ETI群32.6%、28日全生存率はBMV群5.4%・ETI群5.3%で有意差はなかった。
合併症はBMV群で有意に多かった。
|
BMV |
ETI |
P値 |
全て |
18.1% |
13.4% |
P=0.004 |
気道確保失敗 |
6.7% |
2.1% |
P <0 .001 |
胃内容逆流 |
15.2% |
7.5% |
P <0 .001 |
ってことで、
両群の生存アウトカムに有意差はなく、BMVの非劣性マージンを満たすことは出来なかった。
ステロイドはseptic shockの予後を改善するか 〜APROCCHSS〜
★NEJM★
Hydrocortisone plus Fludrocortisone for Adults with Septic Shock March 1, 2018
敗血症性ショックとステロイドの多施設RCTは
French trial
CORTICUS study
ADRENAL
の3つあります。
Frenchでは、死亡率が改善するということでしたが、CORTICUS, ADRENALでは、ショックからの離脱は早くするけど死亡率は改善しない。という結果でした。
死亡率が出た報告と出なかった報告の違いとして
① ステロイドの違い
Frenchではソル・コーテフ(50mg×4回/日)とフロリネフ(50 mcg経口1回/日)
CORTICUS,ADRENAL ではソル・コーテフ50mg×4回/日
② 重症度
French SAPSⅡ 59
CORTICUS SAPSⅡ 49 SOFA 10.6
ADRENAL APACHEⅡ 24-25
が考えられています。
今回は、French trialの筆頭著者であるAnnneが、ステロイドの使い方を教えてやるとばかりに(かってな想像です)再度RCTを行いました。これがAPROCCHSS trialです。
もともとはステロイドの効果だけでなく活性化プロテインの効果も検証する2 x 2のfactorial designで組まれたRCTでしたが、途中で活性化プロテインCの販売終了をうけて、ステロイドのみで続けられました。
フランスの34施設 計1241 patients。で行われたstudyで
対象患者は、
・成人の敗血症性ショック患者
・ノルアドレナリンやアドレナリンなどを0.25γor 1mg/hr以上の高用量投与 6時間以上
・SOFA 3, 4点の臓器不全を2つ以上 6時間以上 (昇圧剤で1つ満たすのでそれ以外を一つ以上)
除外基準は、24時間以上の敗血症性ショック、出血高リスク、妊娠/授乳、ステロイド治療歴
患者の割付は
ハイドロコルチゾン 50mg q6gh +フルドロコルチゾン50/dayで7日 or プラセボ
主要評価項目は「90日死亡率」
副次評価項目は
・ICU退室時/退院時/28日/180日 の死亡率
・カテコラミン離脱までの時間と離脱日数
・人工呼吸離脱までの時間と離脱日数
・臓器不全離脱*までの時間と離脱日数
*SOFAスコア6点未満
安全性
・二次感染
・消化管出血 (28日まで)
・高血糖 (7日まで)
・神経学的後遺症 (ICU退室時、90日, 180日時点)
でした。
さて結果です。
年齢は66歳ぐらい。男性が67%ぐらい SAPS2 56 SOFA 12
感染巣は肺炎が59%で最多、 次が尿路17.7%
カテコラミンはNAD1γ、AD2γ
呼吸器92%, RRT 28%
とかなり重症患者。
主要評価項目である90日死亡率は、
ステロイド 43.0% vsプラセボ 49.1%と有意差あり(P=0.03)、死亡の相対リスクは0.88 (95% CI, 0.78 to 0.99)。
副次項目のうち死亡率は、
|
P値 |
||
ICU退室時 |
35.4% |
41.0% |
P=0.04 |
退院時 |
39.0% |
45.3% |
P=0.02 |
28日 |
33.7% |
38.9% |
P=0.06 |
180日 |
46.6% |
52.2% |
P=0.04 |
臓器障害に関しては、カテコラミン、人工呼吸、臓器不全のいずれもステロイド群の方が有意差有りで早期に離脱。
|
P値 |
||
カテコラミン 離脱日数 |
17日 |
15日 |
P<0.001 |
人工呼吸器 離脱日数 |
11日 |
10日 |
P=0.07 |
臓器不全 離脱日数 |
14日 |
12日 |
P=0.003 |
180日以内の重篤な有害事象の発現率に有意差なし(53.1% vs 58% p=0.08)。
高血糖の頻度はステロイド群のほうが高かった (RR 1.07; 95% CI, 1.03 to 1.12; P=0.002)。
というわけで敗血症性ショックにおいてステロイドは90日死亡を減少させたとのこと。
うーん。重症度の問題?フルドロコルチゾンのおかげ?よくわからんです。ステロイドでショックからの離脱が早くなることはもう間違いなさそうで、昇圧剤をたくさん必要とする患者ではステロイドは予後改善するっていうことでしょうか。。。