ステロイドはseptic shockの予後を改善するか 〜ADRENAL〜
★NEJM★
Adjunctive Glucocorticoid Therapy in Patients with Septic Shock
March 1, 2018
敗血症性ショックに対するステロイドの効果を見た多施設RCTは、
French trial
Corticus study
の二つがあります。
Frenchでは、死亡率が改善するということでしたが、CORTICUSでは、ショックからの離脱は早くするけど死亡率は改善しない。という結果でした。
詳しくは
を御覧ください
Corticusの問題点として、
・重症度が低い
・研究の組み入れまでの時間が長かった(72hr)
があり、これらのために死亡率に差が出なかったのではという意見がありました。
そこで
・よりサンプルサイズを大きく
・重症度を高く
・組み入れまでの時間を短く
として、ステロイドは敗血症性ショックの予後を改善するかを調べたのが今回の研究です。
ADRENALっていうみたいです。
研究はANZICSグループを中心とした豪州、UK、NZ、サウジアラビア、デンマークの69施設で行われました。
対象患者は、
・成人の敗血症性ショック患者
・人工呼吸管理
敗血症の定義はSIRS≧2項目+感染
敗血症性ショックの定義は、カテコラミンを4時間以上かつ割付まで使用。
除外基準は、
・ステロイド服用中の患者
・Etomidateを服用中の患者 (ステロイドが入っている)
・院内発症
etc
で、
200mg/日のハイドロコルチゾン(死亡やICU退室が7日未満なら、そこで投与終了)
と
プラセボ群に割付て
主要評価項目は
「90日死亡率」
サブグループとして
・内科or外科、
・NAd, Ad 15μg/min 以上or 未満
・肺炎or その他
・男性or 女性
・APACHE2 25点未満 or 25点以上
・ショック期間 6時間未満 6-12時間、12-18時間、18-24時間
を評価。
副次評価項目は
・28日死亡率
・ショックから離脱するまでの時間、ショックの再発
・ICU滞在日数、在院日数
・人工呼吸の頻度、日数
・RRTの頻度、日数
・2-14日の間の新規の菌血症
・輸血の頻度
でした。
結果は
3800人がenroll。データ集まったのは3658人。
年齢は62歳ぐらい。男性が60%ぐらい APACHEⅡが23-24点、術後が31%。
感染巣は肺炎が35%で最多、 次が腹部25%
ICU入室から割付までは27時間ぐらいでした。
90日死亡は、
ステロイド 27.9% vs プラセボ 28.8% (95% CI 0.82 to 1.10; P=0.50)
で、有意差無し。サブグループ群いずれも有意差なしでした。
副次項目のうち、
Shockの改善までの期間が短かった。
(3 days vs 4 days; 95% CI, 1.23 to 1.41; P<0.001).
人工呼吸離脱までが早かった。
(6 days vs 7 days; 95% CI, 1.05 to 1.22; P<0.001)
が、人工呼吸離脱日数に、差はなかった。
なぜか、輸血頻度が低かった。
(37.0% vs. 41.7%; 95% CI, 0.72 to 0.94; P=0.004).
副作用としては、ステロイド群で多かった(1.1% vs. 0.3%, P=0.009)が、Shock再発、透析、二次感染は差がなかった。
ということで、ステロイドで、ショックからの離脱やICU退室は速くなるがSeptic Shockの生存は改善しない‼って結論。
CORTICUSとほぼ同等の結果で、やっぱりな~って感じでした。
次回は、APROCCHSS (N Engl J Med 2018; 378:809-818)について。これは意外な結果でした。
敗血症とステロイド 〜ステロイドはショックへの進行を防げるか〜
★JAMA★
Effect of Hydrocortisone on Development of Shock Among Patients With Severe Sepsis: The HYPRESS Randomized Clinical Trial. November 1, 2016
敗血症とステロイド 〜CIRCIとこれまでのRCT〜 - Fly High ! ER・ICU学習記録
の続きです。
SSCG2016発表後にでた敗血症とステロイドのRCTは、
・HYPRESS (JAMA. 2016 ;316(17):1775-1785.)
・ADRENAL (N Engl J Med 2018; 378:797-808)
・APROCCHSS (N Engl J Med 2018; 378:809-818)
があります。
2018年3月にNEJMでpublishされたADRENAL, APROCCHESSを見る前に、HYPRESSを診ておきましょう。
<重症敗血症に対するステロイド投与は敗血症性ショックへの進行を防げるか?>
ドイツ34施設
敗血症の基準はSIRS 2項目以上+感染。
重症の定義は 48時間以内に臓器不全が出現していること。
除外基準は敗血症性ショック、18歳未満、使用する薬剤への過敏症、他疾患でステロイドを使用する患者。
ハイドロコルチゾン50mgボーラス後200mg/dayで持続静注5日間
その後2日間おきに半量ずつ減量する
というプロトコール。
主要評価項目は14日以内の敗血症性ショックへの進行
副次評価項目は敗血症性ショック発症までの時間、死亡率、二次感染症など。
症例数は353例。
年齢65歳ぐらい、救急症例が8割
重症度は、APACHEⅡ 19点 SOFA 6.3点と高くない。
感染巣は呼吸器系で約半分、ついで腹腔内、尿路の順でした。
28日死亡率は約8%、院内死亡率約13%、180日死亡率約24%で死亡率はいずれも有意差なし。
ICU在室日数や人工呼吸器離脱日数、腎代替療法離脱日数でも有意差なし。
合併症としては、二次感染発症は有意差はなく、高血糖がステロイド投与群で有意に上昇。なぜかせん妄はステロイド投与群で有意に減少した。
これらの結果は、相対的副腎不全症例でも有意差を認めず。
ということで、重症敗血症でステロイドを投与してもショックへの進行を抑制できないという結論でした。
敗血症とステロイド 〜CIRCIとこれまでのRCT〜
Critical Illness-Related Corticosteroid Insufficiency (CIRCI)って概念ご存知ですか?重症患者では、ストレスに応じた量のコルチゾールが分泌されないという「相対的副腎不全」に加えて、糖質コルチコイド受容体の減少や組織反応性低下により、「糖質コルチコイドの活性が低下」するとされています。これが、CIRCIです。重症患者でステロイドを補充するのは上記に対応するためです。
重症患者の代表が敗血症性ショックです。敗血症性ショックとステロイドはこれまでたくさん研究されてきました。一昨年までの大規模RCTは二つです。
一つ目は2002年のFrenchトライアルです。
フランス19施設のICU
敗血症性ショック患者を8時間以内にハイドロコルチゾン50mg q6hrとフルドロコルチゾン50mg/day投与を7日間投与とプラセボ群と比較。
↓
相対的副腎不全患者において、
28日死亡率(53% vs 63%)、ICU死亡率(58% vs 70%)、院内死亡率(61% vs 72%)は減少。
ショックからの回復短縮。(7days vs 10days)
二次感染症増加なし。
二つ目は2008年のCORTICUS studyです。
52施設のICU
ハイドロコルチゾン50mg q6hrを5日間とその後減量する群とプラセボ群と比較。
↓
28日死亡率に差は認めず (34.3% vs 31.5%)。
ショックからの回復短縮 (3.3 days vs 5.8 days)
二次感染や高血糖、高Na血症が増加。
これらの結果を受けてSSCG2016では、輸液負荷と昇圧薬で循環動態が安定化しなかった場合のステロイド投与がweak recommendationされています。
次回は
重症敗血症に重症敗血症に対するステロイド投与は敗血症性ショックへの進行を予防できるかについてです。